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加茂のブログ3回目|マドプラス+|姫路市

2026年4月10日

加茂の趣味の話3回目です。物語調で書いてみました。

加茂のブログ3回目です。
 
今回も趣味の話です。
 
趣味の話ですが、趣味をやめた話です。
 
 
山に囲まれた町で育った私は、小さいころから海にあこがれていた。

キラキラ光る海面、そしてその下で自由に泳ぐ魚たち。

テレビで漁港の食堂を紹介する番組が流れるたび、少年の私はまるで別の世界を覗くように、画面に目を輝かせていた。
 
 
「いつか自分も、あんな新鮮な魚を食べてみたい。」
 
 
その夢は大人になってからも、ずっと心のどこかに残っていた。
 
 
 
ある日、職場の上司がぽろっと漏らした一言が、そんな私の心を再び揺らした。
 
 
「今度の休み、船出すけど、釣り行かんか?」
 
 
船。しかも自前の。

渡りに船とはまさにこのことだと思った。

少し無理をして道具をそろえ、私は釣りの世界に飛び込んだ。
 
それからの休日は、まるで子どもに戻ったような時間だった。

明石でタコを引き上げ、淡路島でブリを狙った。
 
 
 
 
なかでも夢中になったのが小豆島沖でタイだった。
 

真冬の海に吹きつける風、冷たい指先、じっと耐える静寂。

そして糸の向こうから伝わる“コツッ”という手ごたえ――

その瞬間、寒さも疲れも吹き飛ぶ。
 
 
釣れたタイは驚くほどおいしく、刺身、湯引き、煮つけ。

食べ尽くすたびに「やっぱり天然に勝るものはない」と、自分の釣果に満足していた。
 
 
 
 
そんなある日、後輩の一人が声をかけてきた。
 
「先輩、今度釣り連れてってくださいよ。でも……できればもうちょい気楽なところで。」
 
なるほど、確かに初めから船はハードルが高い。

そこで、徳島にある釣り堀へ行くことにした。

釣った魚をその場で捌いて食べられるという話に、私自身も少しワクワクしていた。
 
当日は淡路島で寄り道をしながら、のんびり旅気分。

釣り堀に着くと、海ではなく囲われた水面に竿を垂らす。

最初は当たりが渋かったが、後輩が見事にタイを吊り上げた。
 

「よっしゃ!」と声を上げ、スタッフの手でその場で捌かれたタイが、定食になって目の前に置かれた。
 
ひと口、口に運んだ。
 
 
 
 
 
――その瞬間、世界が止まった。
 
え? なにこれ。

舌の上で、とろける。

今まで食べてきたどんな魚より、圧倒的にうまい。

信じられない気持ちで、私はスタッフに聞いた。
 
「このタイ、どこのですか?」
 
どこに船を出せばこのタイが釣れるのかと期待を膨らませた。
 
スタッフはあっさりと答えた。
 
 
 
 
「鳴門の養殖ものですよ。」
 
 
 
 
その言葉を聞いた瞬間、私は言葉を失った。

小豆島の天然タイこそ最高だ、と信じて疑わなかった自分が恥ずかしくなった。

「天然こそが最も美味であり、価値がある」

ずっとそう思って生きてきたのに、目の前の刺身がその考えを簡単にひっくり返したのだ。
 
もちろん、私の舌が子どもだっただけかもしれない。

けれど、あとで調べてみると、養殖の方が脂の乗りや甘みで勝るという話は珍しくなかった。

その日を境に、私の中で釣りの意義が少しずつ変わっていった。
 
そして気づいたら、釣り道具の箱にほこりが積もり始めていた。
 
 
 
 
あの日、後輩と食べた鳴門の養殖タイ。

あの豊かな味わいは、今も忘れられない。


 
また、後輩がそれ以降釣りに行かなかったことは言うまでもない。
 

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